「ダンケルク」戦争映画ではなく戦場映画

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 Netflixで配信されてたので見ました。

 

 結論から言うと、「まぁ・・・」な映画でした。そもそもダンケルクの戦い自体が結構マイナーというか、義務教育で習うものでもないし映画やゲームでも舞台にされにくい(WoTくらい?)ので知らない人も多いと思います。加えて、日本では上の画像よろしく「ダークナイト、インターステラ―のクリストファー・ノーランの送る史上最大の救出作戦ダンケルク!」みたいな銘で売り出されてるもんだから「どんなワクワクが待ってるんだろう」と期待して見に行った人はガッカリ必至の作品だったと思います。俺も最初はそんな感じでした。

 

 まず、そもそもダンケルクの戦いとは何なのか?それを予習しておく必要があります。ナレーションや字幕による解説はなく、登場人物の言動で概要が分かる程度で、歴史的な背景は一切描かれません。なので、二次大戦の西部戦線、ドイツのフランス侵攻あたりの事情を知らないと誰が何のために何をしているのかがさっぱり分からないわけです。

 

ダンケルクの戦い - Wikipedia

 

 それと、この映画にはトミーとファリアーとドーソンという三人の人物が登場しますが、あまりにも個性が薄いというか、どういう人物なのかが全くと言っていいほど語られません。通常の戦争映画であればその登場人物の友人、家族、同じ部隊の仲間、上官などの描写がありますが、そういったものはほぼ無し。ファリアーとドーソンだけはちょっとだけ描写がありますが、メインキャラクターとは思えないくらいの掘り下げのなさです。加えて、敵であるはずのドイツ兵も一切描かれません

 

 俺が一番すごいなーというか違和感を感じたのがこの敵であるはずのドイツ兵が一切登場しないという部分です。つまりこれは戦争映画じゃないということなんですよ。戦争の様子を描くのが戦争映画であるなら、敵が登場しないのは戦争ではない。災害で人が倒れる様子を描いたものは戦争映画ですか?違いますよね。敵が居ないのなら戦争ではない。つまりこれは戦争ではなく戦場を描いた映画なのだと、見終えてやっと気付いたわけです。ちょっと極論かもしれませんが、ここまで徹底して敵兵の存在を排除しているのであればなんらかの意図があると思いました。

 

 クリストファー・ノーラン監督が拘ったのはキャラクターの掘り下げでも迫力のある戦闘シーンでもなく、圧倒的に“リアル”な戦場の映画。派手なアクションも大層なBGMも必要ない、一枚絵のような戦場を描きたかったんだろうと思います。実際、ノーラン監督は本物志向が強く、本作においても本物の船舶や戦闘機を用いて、空中戦においては実際の飛行機にカメラを搭載して撮影していると聞きます。CGで誤魔化せるどころか、無からでも映像を生み出せるこのご時世に、スピットファイアのあの戦闘シーンを撮影する為にそこまで手の込んだことをしているのです。

 

 加えて、トミーというメインキャラクターの一人。彼は作中で最も掘り下げのない、見所のない人物で、そもそもトミーという名前からしてイギリス兵の総称ですから、記号としてのキャラクターを最初から位置付けられています。スピットファイア操るファリアーは作中で最も見所のあるキャラクターではありますが、勇敢で優秀な軍人以外の記号を与えられていません。

 

 つまり、掘り下げようと思えばメインキャラクターに出来たはずの「ドーソン」、冒頭からずっと登場しているが一般兵としての記号を与えられた「トミー」、勇敢でカッコいい軍人の象徴である「ファリアー」、そして徹底的に存在を排除された「ドイツ兵」。これらが意味するものは、ダンケルクという一枚絵です。

 

 結論としては、まぁこんなもんって感じなんですよ。だって一枚絵を見て「すっきりした」とか「面白かった」「興奮した」って感想は絶対出てこないと思いますし、「泣けた」とか「感動した」くらいならあり得るかもしれませんが、それは予備知識あってのもの。ダンケルクの戦いについて熟知しており、そこに生きた人々と何かしらの縁があって感情移入するに値するだけの何かがあればそれくらいの感情を抱けるのかもしれませんが、あいにく俺は特にそうしたものがなかったのでぶっちゃけ微妙以上の感想を抱けませんでした。

 

 だって一枚絵ってそんなもんじゃん?

 

 

 

いとふゆ。以下、巡回中に見つけた感想などなど。

 

「これ、どこが面白いの?」 『ダンケルク』が描く“事象”としての戦争、描かれない内面 - ねとらぼ

 これが一番面白い考察でした。俺もブルーエンサインの件は知りませんでしたし気付きませんでした。あと、ドイツ兵が登場しないだけでなく「Enemy」としか呼ばれてないのにも気付きませんでした…。

 

映画「ダンケルク」が100倍おもしろくなる「スピットファイアのうんちく話」 | 文春オンライン

 スピットファイアに関するうんちくは知らないことが多く勉強になりました。案外ノーランが描きたかったのは本当にスピットファイアだけだったのかもしれません。

 

『ダンケルク』はなぜカタルシスを排し、苦痛を強いるのか? クリストファー・ノーランが映像で描く戦争体験 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

 他にも、カタルシスを排して淡々と描かれ続ける苦痛の理由を考察したものも。

 

なぜ『ダンケルク』は“薄味”に感じるのか? ノーラン監督の作家性と“戦争映画”としての評価を考察|Real Sound|リアルサウンド 映画部

 ノーラン監督の作家性から言及したものなんかもあって、なるほどなぁと感じさせられましたね。